葛西美空とは(2)葛西美空のネタ動画

葛西美空のネタ動画

葛西美空のネタ動画」。もはやこれだけで一つのブランドと考えても良いのかもしれない。葛西美空のネタ動画のシナリオを考察すると、その奥深さに感心させられることが多い。

葛西美空のネタ動画の基本構造

ネタ動画の始まり

葛西美空の感謝の質問コーナー【後編】 2022/11/22投稿」で次のように詳細を語っている。

  • 最初は、かわいいダンスでバズリたかったが、笑いに寄せていくうちに”一人二役”のネタ動画が増えて行った
  • ネタを考える際は「いい意味で期待を裏切る」ことを大事に考えて作っている。
  • ネタが無尽蔵に出てくるわけではなく、基本的に毎日尽きている。1週間に一度位は “もうネタが思いつかないのでは” と危機感を感じることがある。
  • ネタを思いつくまでに3時間程度かかることも多く、一日中ネタのことを考えている
  • 短時間で思いついたネタ動画は視聴回数が伸びないことが多い
  • ネタ動画が上手く作れたか(視聴回数が伸びたか)否かで、その日の気分が大きく変わる。
  • ネタ動画を作ること(YouTubeでの投稿、それによって視聴者が喜ぶこと)が生きがいである。

後述するが、ネタ動画のシナリオは全て葛西美空自身が作っていて、当然のことではあるが、葛西美空といえどもいつでもネタを容易に思いつくわけでは無く、生活のほとんどの時間を「ネタを考えること」に費やす不断の努力を継続していることになる。

時間をかけて考えたネタ(シナリオ)であるからこそ、濃い内容の素晴らしいネタ動画になっているのは至極当然のことだと理解できる。

笑いのあるネタ動画によって人々を喜ばせたいという葛西美空の本望が、ネタ動画の始まりであり、言い換えればネタ動画は今の葛西美空そのものであると言っても過言ではない。

ネタ動画の作り方について、詳しく語っている動画

2分30秒、4分38秒、6分19秒,9分35秒の4か所で、ネタ動画に関する話題を語っている。

葛西美空の感謝の質問コーナー【後編】(2022/11/22投稿)」

葛西美空の感謝の質問コーナー【後編】
https://youtu.be/nFLZkyz-HQ0?t=147 2022/11/22投稿

  

基本は一人芝居(一人コント)

ネタ動画は、他のクリエーターとのコラボ動画を除いて、原則、葛西美空の一人芝居(一人コント)である。ただし、いわゆる舞台での一人芝居とは異なり、個別に録音した音源を編集で重ね合わせることで、1人2役から、1人4役、1人5役といったシナリオを成立させている。

それぞれの役(キャラクター)は、葛西美空の多彩な声色を駆使し、男児・女児、男子生徒・女子生徒、青年の男性・女性、お父さん・お母さん、老爺・老婆と、ほぼ全世代の男女を演じ分けている

この葛西美空の才能(強み・能力)により、シナリオの展開には制限がなく、世界観の自由度が無限に広がっていることが、最大の武器となっている。これは、ベテランの声優にも似た特技ともいえる。

 

ネタ動画に登場する役の人数

表1:YouTubeのショート動画でのネタ動画890本中の「1人n役」集計表

1役1人2役1人3役1人4役1人5役以上
22本(2%)373本(42%328本(37%105本(12%62本(7%
44%が 1人2役以下56% 半分以上が、1人3役以上

多くのクリエーターの場合、2役の相手役は別の演者さんが演じたり、ボイスチェンジャーを活用したりするが、同じ声調で話し方を変えているだけのケースが殆どである。

葛西美空に関しては、ネタの上で必要な場合を除いて、全て自分の声色で演じ分けを行っている。特に、1人3役以上のネタ動画が半数以上を占めていることは、葛西美空以外にはありえないのではないだろうか。

 

多くの登場人物を1人で演じた例

以下の動画は、①ミクちゃん、②男子クラスメート、③担任の女性教師、④布教する女性、⑤友人、⑥お母さん、⑦お父さん、の合計7役が登場する、1人7役の動画となっている。

天然キャラのミクちゃんが、わずか60秒の動画で、教室⇒放課後⇒自宅と、次々に場面が変わっていく広い空間の中でストーリーが進展し、それぞれの場所で強烈な個性を発揮していく。

冗談とか嘘とかが通じない奴(2023/1/12投稿)」

冗談とか嘘とかが通じない奴
https://youtu.be/D_eNu729P2Y 2023/10/12投稿

 

ネタ動画は全て葛西美空が作る

葛西美空はネタ動画の作り方を、葛西美空を知る上では特に参考になる動画としてYouTubeに「【ゆるふわ動画】葛西美空の撮影風景を見せましょう【プロフェッショナル】(2023/7/30投稿・削除済)」を投稿している。(※残念ながら、2024/10/10に本動画は削除された。現状では私的アーカイブでのみ参照ができる)

この投稿動画では、葛西美空のネタ動画の作り方とその様子をかなり詳細に見せていた。カメラの角度によるキャラクターの年齢の違いの出し方や、シナリオ構成を考えるなかで何度も試行錯誤を繰り返す様子など、非常に参考になる貴重な動画である。

葛西美空を知ったばかりの視聴者は概ね「葛西美空には作家がいるのではないか?」と推測してしまうことが多い。その理由はネタ動画のシナリオの完成度が高いからに他ならない。

しかし以下の動画によって、その推測が間違っていたことを知った時に、多くの視聴者が驚嘆し衝撃を受けることになる。この「衝撃と驚きの感情」が葛西美空の底知れない魅力の正体だ。これらは大変貴重な動画である。

ネタ動画作成の手の内を見せてしまうことを考えれば、ライバルとの競争面ではマイナスだ。だが、自分のやり方に自信があるからこそ、それらを視聴者に堂々と披露できるのであって、そのこともファンにとっては「葛西美空のファンでいることを誇りに思わせる」のである。

葛西美空といえども、常に完璧ではない・・・

ネタが思いつかない状態でも、視聴者を楽しませる動画に仕立てることができるのは、天性の才能か?不断の努力か?単に天然なのか?。おそらく答えは一つでは無い。

ネタが思いつかない時の葛西美空のルーティン(2023/1/12投稿)」

ネタが思いつかない時の葛西美空のルーティン
https://youtu.be/D0ASNnz8-Gg 2023/1/12投稿

 

オチ(終話)が判りやすい

お笑いネタのオチ(終話)についてはプロの領域なのでここでは論評をしないが、葛西美空のネタ動画の場合、シュールな空気(話が噛み合わない状態)を最後まで続けるケースや、リズムネタ、または一発ギャグなどで強引に話を終わらせるネタは皆無である。概ね、ストーリーの主題や要点から逸脱することなく、伏線や状況を回収する形のオチである場合が多く、見ている側が素直に受け入れやすい内容が多い。

冒頭からお母さんの言動は危なっかしいのだが・・・

変わった両親の話が続き、最後はお父さんがすべてを回収するオチ(終話)。ストーリーの本題である「変な両親」がストレートにオチにつながっている。

なんでも正直に答える天然な母(2023/9/5投稿)」

なんでも正直に答える天然な母
https://youtu.be/90i-gmZbbq8 2023/9/5投稿

 

考え抜いたシナリオ構成

葛西美空は小学生の時に「シベリアンハスキーに変身して世界を救う小説・漫画」を書いていたと語っている。また、幼少期から「人を笑わせることが大好き」とも語っている。

人を笑わせるためには、常識の裏側の「ふり幅や落差が大きく、感情を揺さぶる非常識」を思いつかねばならず、葛西美空が日ごろからそのような発想(想像・創作)に想い巡らせていることが推測できる。これらは「天性の才能」でもあるだろうし、幼少期からの毎日のように行っていた「地道な習慣や努力の結果」とも言える。

いずれにせよ、葛西美空の考えるネタ動画のシナリオに関しては、出来事や登場人物にある “背景” を丁寧に設定し、考え抜いて創作されている。だからこそ、多くのファンが魅了されているのである。

単純に “図々しい奴” と考えてしまうと、矛盾がでてしまう、実は深い仕掛けのあるストーリー

葛西君(ミクオ)がニートでいる理由が明かされていないことが、この動画のポイントになっている。

(以下、ネタバレ含みます)

ここで紹介するネタ動画は、地元で再会した旧友の飲み会での出来事。葛西君(ミクオ)はとても気の利くいい奴なのだが、ニートなので割り勘の勘定は支払わないぜ!という話だ。深く考えてみると「ニートは働いていないのだからお金は出せない」は数理的には正しい理論だ。それだけミクオはニートであることに正直に向き合っているのかもしれない。

素人考えであれば、ニートのキャラクターはニート然とした内向的なキャラクターになるだろう。しかし、ここに登場するミクオは “明るく友人思いで完璧なまでの気遣いを披露する非常に優秀な人材” だ。ではなぜ、ニートのミクオは「優秀ないい奴」なのだろうか。

この「いい奴スキル」は、ミクオが “優秀なヒモ” だからなのか?、あるいはニートでいられるほど実家が裕福で育ちの良い子なのだが、”ニートでいることの原則=お金は払えない” の信念を頑なに守っているのか?。一方でかつてのミクオと同級生の高橋君の関係も気になるところだ。そう考えていくとミクオがただの図々しい奴ではなく「少し謎めいた存在」になってくる。

ここまでくると、視聴者はその謎めいたミクオが何者なのかと想像を広げることができるのである。ショート動画の短い時間でミクオがニートでいる理由を明かすことは到底不可能だ。逆にそれを利用して、息つく間もないストーリー展開の中に、巧妙に「そのキャラクターの謎」を組み込んでいるのである。こういった奥深さが、葛西美空のシナリオには仕組まれているのだ。

幼馴染がかっこいい大人になってた…と思ったら…(2024/1/15投稿)」

幼馴染がかっこいい大人になってた…と思ったら…
https://youtu.be/qXEHsVcMRio 2024/1/15投稿 

 

この記事の後書き

前の記事に書いたことだが、葛西美空は、2023年後半頃に自身の名刺を作成し、Xで公開している。そこには「 Comedy Scenario Writer(コメディ シナリオ ライター)」と書かれており、葛西美空自身も「シナリオのあるネタ動画」が最大の売りであることを自認していることが伺える。

本記事では、葛西美空のネタ動画のシナリオの特徴について書いたが、例に挙げる動画については、探すのは容易で、逆にどれにするかを選ぶことが難題であった。どの動画についても、「葛西美空のネタ動画のシナリオ」は秀逸なのである。

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